大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和41年(ラ)74号 決定

抗告人 国

訴訟代理人 青木康 外三名

相手方(原告) 竹内陽一

主文

原決定を取り消す。

抗告人の本件補助参加の申出はこれを許可する。

訴訟費用(異議について生じた分も含む。)は、第一、二審とも相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

補助参加の要件たる民事訴訟法第六四条にいわゆる訴訟の結果につき利害関係を有する第三者とは、判決主文における訴訟物自体に関する判断の結果につき法律上の利害関係を有する者をいうのであつて、右利害関係は、判決主文に直接するものであることを要せず、いやしくも判決主文から法論理的に推知される利害関係であれば、たとえ間接的なものであつても、補助参加の利益があるものと解するのが相当である。

本件についてこれを見るに、抗告人が被告を補助するため参加しようとする本訴訟は、「被告は、原告(相手方)が本件各不動産につき所有権移転仮登記の抹消登記手続をなすことを承諾せよ。」との裁判を求めるもので、その請求原因は、要するに、(一)被告は、昭和三六年七月三〇日頃訴外羽田庄司および羽田吉郎治からその各所有にかかる本件各不動産を、福島県知事の許可を条件として買い受け、同年一一月一六日右停止条件付売買契約を登記原因として右各不動産につき仮登記を経由した。(二)一方、原告は、昭和三八年二月一日羽田庄司との間に手形取引および証書貸付契約を締結し、羽田吉郎治は、右契約に基づく羽田庄司の債務につき連帯保証をした。(三)同年二月二三日原告は、右貸付契約に基づき羽田庄司および羽田吉郎治との間に債権極度額金四〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、本件各不動産につき根抵当権設定登記を経由した。(四)その後原告は、前記貸付契約に基づき羽田庄司に対し金員を貸し付け、昭和三八年四月一日現在貸付元金総額は金五二三万五、〇〇〇円に達した。(五)しかるに、前記農地法に基づく許可申請は、福島県知事によつて却下されたので、昭和三九年一一月二三日被告と羽田庄司および羽田吉郎治は、合意の上本件各不動産に関する前記停止条件付売買契約を解除した。(六)よつて、原告は、登記上の利害関係人として、予備的に羽田庄司および羽田吉郎治に対する前記貸付金債権に基づき、右両名に代位して、被告に対し本件所有権移転仮登記の抹消登記手続をすることの承諾を求めるため本訴請求に及んだ、というにある。

一方補助参加をしようとする抗告人の参加理由は、要するに、(一)抗告人は、羽田庄司(羽田吉郎治は連帯納税義務者)に対する昭和三九年度分贈与税等合計金九九万九、三二〇円の租税債権に基づき、国税徴収法による滞納処分として、昭和四〇年一月二五日羽田庄司の被告に対する本件各不動産の売買代金債権金一五〇万円のうち金一三〇万円を差し押えた。(二)被告の羽田庄司および羽田吉郎治に対する本件各不動産に関する所有権移転請求権と右両名の被告に対する売買代金債権とは双務契約上の牽連関係にあるので、本訴訟の判決において、右所有権移転請求権が存在しないと判断されるときは、当然に右売買代金債権も存在しないものとして取り扱われる関係にあるから、もし被告が敗訴した場合、抗告人が被告を相手方として前記売買代金につき羽田庄司らを代位して取立訴訟を提起しても抗告人は不利益な取扱を受けるし、該確定判決によつて本件仮登記が抹消されると、順位保全の効力を失い、その結果は、右仮登記後に所有権取得登記を経由した者に対抗し得ないこととなり、また後順位の抵当権者も先順位に浮上することは必然で、そうなると、抗告人の前記租税債権の取立に影響を及ぼすことになるので、右租税債権に基づく債権差押の効力を保持し、満足な取立を確保するため、差押の対象たる権利を擁護する必要がある、というのである。

右事実関係のもとにおいては、原被告間の本訴訟の訴訟物は、本件各不動産に対する仮登記抹消登記請求権であつて、右訴訟における判決の結果如何により直接抗告人の羽田庄司および羽田吉郎治に対する前記租税債権に影響を及ぼすものではないが、登記は、実体上の権利関係を反映すべきもので、実体上の権利関係との不一致を理由に登記の変更訂正を求める訴においては、常に実体上の権利関係の存否自体が請求の主たる内容をなし、判断の対象となるのであるから、本訴訟において被告が敗訴すると、本件所有権移転仮登記が抹消されることになるが、その場合の判決理由は、原告の請求原因に照らし、羽田庄司および羽田吉郎治と被告間の本件各不動産に関する前記売買契約が解除され、その結果、実体上の権利関係と登記とが符合せざるに至つたということになるわけである。そうなると、双務契約たる売買契約解除の当然の結果として、被告の羽田庄司および羽田吉郎治に対する本件各不動産の所有権移転請求権が消滅するとともに、右両名の被告に対する売買代金債権もまた消滅することとなるので、抗告人が前記租税債権を保全するためにした羽田庄司の被告に対する前記売買代金債権の差押は、結局その目的を遂げざるに至るべく、しかも、疎丙第一三号証によると、国税滞納者たる羽田庄司および羽田吉郎治は無資力で、差押にかかる右売買代金債権以外に見るべき財産がないことが疎明されるので、抗告人は、右租税債権を確保するため、右売買代金債権差押の効力を保持する必要があるものといわねばならない。したがつて、抗告人は、原被告間の本訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する第三者に該当するものというべきであるから、抗告人の本件補助参加の申出を許容するのが相当であつたにかかわらず、原審が右と異る見解のもとに右申出を許さない旨の決定をしたのは不当であるので、これを取り消すべきものとし、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第九四条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 檀崎喜作 野村喜芳 佐藤幸太郎)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

抗告人からなした補助参加はこれを許す。

手続費用は全部原告の負担とする。

抗告の理由

原決定は、抗告人に本件訴訟の結果につき、法律上直接の利害関係を有せずしたがつて、本件補助参加は、許されない旨判断されるけれども、右判断には異議がある。

一 補助参加制度の趣旨

民訴六四条の補助参加の制度は、いうまでもなく、訴訟の結果につき利害関係を有する第三者の法的利益を保護しようとする趣旨にでたものである。だが、既に係属中の当事者間の訴訟に参加する制度であるから、参加による対立当事者の訴訟追行上の利害ということももちろん考慮に入れなければならない。そして、通常参加によつて被参加人となる当事者は利益を受け、その相手方となる当事者の方は不利益を受けるのが一般である。そこで補助参加人の補助参加による利益と、被参加人でない方の当事者の訴訟追行上の不利益との均衡が問題となるが、補助参加人の補助参加による利益に対して、相手方当事者の訴訟追行上の不利益がさしたるものではないと判断される場合には、補加参加を許すべきである。

本件においては、補助参加を許されないことによる抗告人の不利益の方が補助参加を許されることによる原告(異議申立人)の訴訟追行上の不利益よりも大であるにもかかわらず、原決定が参加を許さなかつたのは不当である。これに対する異議の理由を以下、述べることにしたい。

二 抗告人の補助参加の利益は、原被告間においてなされるべき判決の理由中の判断についてのみ利害関係を有するものではなく、判決の主文で示される判断について法律上の利害関係を有するものなのである。

本件においては、原告の被告に対する訴訟物は、被告の訴外羽田両名(本件訴状別紙物件目録第一ないし第八の土地所有者として羽田庄司、同第九の土地所有者として羽田吉郎治)に対する所有権移転請求権についての各仮登記(以下「本件仮登記」という)の抹消登記請求権の存否であるが、もし原告が勝訴すれば、被告において本件仮登記の抹消登記手続をなすべき旨の主文の判決がなされることになろう。そして判決が確定すれば、本件仮登記は抹消されることとなる。仮登記が抹消されれば、当該仮登記によつて保全されていた所有権移転請求権は、その順位保全の効力を奪われ、右仮登記後に権利登記を経た者に対して、対抗し得ないこととなることは明白である。すなわち、本件仮登記が抹消されるようなことになれば、被告の訴外羽田両名に対する本件所有権移転請求権は、最優先順位における保全の効力を奪われ、その結果、右所有権移転請求権の各目的不動産について存した後順位の各抵当権設定登記(前記日録第一ないし第八の土地については権利者訴外二瓶吉市、同第九の土地については権利者訴外東光商事株式会社――疎丙第一ないし九号証登記簿謄本参照)が先順位に浮上し、右所有権移転請求権は、いずれも右各抵当権者に対抗し得ないこととなるのである。

さて、そうなると最優先順位における所有権を移転すべき義務を負つていた訴外羽田両名は自己の責に帰すべき事由により(本件売買契約締結の時及び本件仮登記のなされた時本件各物件には、いずれも抵当権の設定及びその登記がなかつたものであり、それはその後訴外羽田両名の意思に基づきなされたものなのである。なお、右抵当権は本件仮登記後に原告と設定者羽田両名との間の設定契約により生じ、その後前記の各権利者に移転されたものであるが、そもそも当初の右設定契約には、仮装の疑があるけれども、今はこれについてふれない。)被告に対しその義務を履行し得ないこととなる。そのような場合、訴外羽田両名が被告に対し完全な履行をしようとすれば、浮上の結果優先順位となつた権利登記を、抵当権者に対する弁済等により、抹消の上、ふたたび本件仮登記と同様の効力を有する仮登記なり本登記を被告に得させる必要がある。そうすると、訴外羽田両名が右のような措置を行なつて完全な給付を被告に対し提供しない限り、売買代金先給付の特約のない本件の場合にあつては(疎内第一二号証)訴外羽田両名は被告の支払拒絶抗弁権(民法五三三条、五七七条、五七八条、四九八条)をもつて対抗されることとなる。

すなわち、原被告間において本件仮登記抹消の主文の判決があれば、その主文によつて被告の訴外羽田両名に対する本件所有権移転請求権の効力が減殺され、その効力の減殺は右所有権移転請求権と牽連関係に立つ訴外羽田両名の被告に対する本件売買代金請求権に支払拒絶の抗弁権を附着させるに至るのである。

さて、抗告人は訴外羽田両名に対し本件国税債権を有するものであるが、訴外羽田庄司の被告に対する本件代金請求権の差押(国税徴収法六二条)を行なつており(主たる納税義務者は羽田庄司、連帯納税義務者は羽田吉郎治――疎丙第一〇号証)その差押の効力たる取立権(同法六七条一項)に基づき、本件国税債権を保全するため被告に対し代位による取立訴訟を提起した場合、本件代金債権に前記のような支払拒絶抗弁権が附着していると、そのような抗弁権をもつて対抗されることが必至であり、このことが抗告人にとつて法的な意味での不利益であることは多言を要しない。

要するに、抗告人は原被告間においてなされるかもしれない被告敗訴の判決の主文の判断につき法律上の利害関係を有するものであつて、それは判決主文―→被告の羽田両名に対する所有権移転請求権の減殺―→牽連関係にある代金請求権への支払拒絶抗弁権の附着―→抗告人の被告に対してなされるであろう代位訴訟における支払拒絶の抗弁、といつた、因果の関係の図式によつて表わされるのである。

三 抗告人の訴訟の結果についての利害関係は、判決主文に直接するものでなければならない旨原決定は判断するけれども、右の利害関係は補助参加人の利益をできるだけ保護しようとする補助参加制度の趣旨からして、間接のものであつてもさしつかえないものといわなければならない。学説もまた「訴訟の結果につき「利害関係」を有するとは、自己の私法上又は公法上の地位に法律上何らかの影響を受ける地位にあればよいのであつて、その訴訟の判決の効力が及ぶ場合である必要はない。参加人の地位が、訴訟物たる権利関係の存否に依存しており、その判決が参加人の地位に法律上影響を及ぼすときは、参加の利益を認めてよい。」(三ケ月章「民事訴訟法」二三五頁)としている。

要するに、判決主文から法論理的に推理される利害関係があるならば、訴訟の結果につき利害関係を有する場合であると判断すべきであり、本件はまさにこれに当る。

四 原決定は、訴訟の結果いかんにより参加申出人の羽田庄司に対する租税債権に対する影響を及ぼすべきはずはない、と判断されるけれども、本件にあたつては影響を及ぼすのである。

すなわち、債務者無資力の場合であつて、差押にかかる財産以外に弁済の資に供すべき財産が存在しないときには、債権保全の必要から、既に差押にかかる財産をできるだけ完全な形において確保する必要にせまられる。さもないと、保全さるべき債権は、形式上存在しても実質のない形骸となつてしまい、このような状態はやはり法的な意味での不利益だということができる。換言すれば、債権の保全の必要は、一種の法的な利益なのである。なればこそそこに債権者代位権が生じてくるのではなかろうか。

本件にあつては、国税滞納者たる訴外羽田両名が右に述べたような意味合いでの無資力者であることは、新たに提出する疎丙第一三号証の疎明するところであるから、抗告人に国税債権保全の必要があり、その必要から被告敗訴を防止する利益があるものと言わなければならない。

五 以上の論述により、抗告人の補助参加の利益を明かにすることができたと思うが、なお次ような理論構成によつても右利益を首肯することができよう。

即ち、本件にあつては、本件代金請求権を有する訴外羽田両名が被告に補助参加できることについては異論はあるまい。ところが、訴外羽田両名は補助参加申立権を行使しようとしない。抗告人は訴外羽田両名に対して本件国税債権を有し債権者である。従つて、訴外羽田両名に代位して補助参加の申立権を行使できる地位にあると解される。

六 以上の次第であるから、本即時抗告に及んだ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例